10億分の1メートルの”見えない傷”を瞬時に発見!東芝が開発した「3D光学検査」技術はなぜ画期的なのか?

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その”完璧”は、いかにして作られるのか

私たちが毎日当たり前のように使っているスマートフォン、パソコン、自動車。これらのハイテク製品は、その心臓部である「半導体」なしには成り立ちません。そして、その半導体は、私たちの目には到底見えない、ナノメートル(10億分の1メートル)という極小の世界で、ほぼ完璧な品質を要求される精密機器の塊です。

もし、その表面に「髪の毛の太さの10万分の1」ほどの微小な傷やホコリが付着していたらどうなるでしょう? たったそれだけの欠陥が、製品全体の動作不良を引き起こす致命的な原因となり得ます。

では、メーカーはこの「見えない敵」をどうやって見つけ出し、排除しているのでしょうか。

今回は、株式会社東芝が開発した画期的な「光学検査技術」をテーマに、ものづくりの品質を支える最前線の世界を旅します。この記事を読めば、最先端の工場で何が起きているのか、そして一つの技術がいかにして私たちの社会を根底から支えているのかが、きっと見えてくるはずです。

ピックアップ記事の要約:ナノの凹凸を「ワンショット」で3D化する革命

今回深掘りするニュースは、東芝の公式発表『高低差がナノスケールの極微小な欠陥をワンショットで3D形状に可視化する光学検査技術を開発』です。

この発表の核心を要約すると、以下のようになります。

東芝は、これまで検出が極めて困難だった、高さわずか数ナノメートルという極微小な凹凸や欠陥を、たった一回の撮影(ワンショット)で瞬時に、かつ広範囲にわたって3D形状として捉える、全く新しい光学検査技術を開発しました。

これは、検査技術における革命的なブレークスルーです。従来、ナノレベルの精密な検査には非常に時間がかかり、生産ライン上での全数検査は不可能でした。しかしこの新技術は、その常識を覆し、半導体ウェハーなどの品質と生産性を飛躍的に向上させる道を開いたのです。


第1章:なぜ「ナノの傷」を見つけるのが、それほど重要なのか?

この技術のすごさを理解するために、まずはなぜ製造業、特に半導体業界が「ナノの傷」にこれほど神経をとがらせているのか、その背景から見ていきましょう。

小さな世界、大きな影響

半導体チップの上には、何十億個というトランジスタが、ナノメートル単位の複雑な回路を形成しています。想像を絶する微細な世界です。
このナノの回路図の上に、もし目に見えないサイズのホコリが一つ落ちていたら、それはまるで東京の路線図の上に巨大な岩が転がっているようなもの。回路がショートしたり、断線したりして、チップはその機能を失ってしまいます。
そのため、製造工程のあらゆる段階で、表面に微細な傷や凹凸、異物が付着していないかを厳しくチェックする必要があるのです。

品質管理のジレンマ ― 「精度」と「速さ」

しかし、この検査には長年、大きなジレンマがありました。

  • 高精度な検査(電子顕微鏡など):
    ナノの世界を見るための電子顕微鏡や原子間力顕微鏡(AFM)は、非常に高い精度で欠陥を捉えられます。しかし、測定に時間がかかり、一度に見れる範囲も極めて狭いため、巨大な半導体ウェハー全体を検査するのは現実的ではありません。そのため、製品の中からいくつかを選んで調べる「抜き取り検査」が限界でした。
  • 高速な検査(従来の光学検査):
    一方、光を使って広範囲を高速に検査する技術もあります。しかし、光の波長よりもはるかに小さい、数ナノメートルといった「高さ」を持つ凹凸を検出するのは、原理的に非常に困難でした。

製造現場では常に、「すべての製品を検査したい(全数検査)」という品質への要求と、「生産スピードを落としたくない」という効率への要求がせめぎ合っています。この「精度」と「速さ」という二律背反をどう解決するかが、品質管理における長年の課題だったのです。


第2章:新技術の心臓部 ~光の「波」を操る驚きの原理~

東芝の新技術は、この「精度」と「速さ」の壁を、光の性質を巧みに利用することで打ち破りました。そのキーワードは「光の干渉」です。

キーワードは「光の干渉」

「光の干渉」と聞くと難しそうですが、私たちは日常的にその現象を目にしています。例えば、シャボン玉の表面が虹色に見えたり、水たまりに浮いた油が色づいて見えたりするのが、まさに光の干渉です。
これは、光が「波」の性質を持っており、複数の波が重なり合うと、波の山と山が合わさって強め合ったり(明るくなる)、山と谷が合わさって弱め合ったり(暗くなる)することで起こります。

東芝の新技術は、この光の干渉を、ナノの世界を測るための「超精密なモノサシ」として利用しているのです。

“モノサシ”としての光の仕組み

この技術の基本原理を、ステップ・バイ・ステップで見ていきましょう。

  1. まず、検査したい対象物(例:半導体ウェハー)の表面に、特殊な光を当てます。
  2. 表面から反射してきた光(物体光)をカメラで捉えます。この光には、表面の凹凸の情報が「波の乱れ(位相のズレ)」として記録されています。
  3. それと同時に、基準となる完璧に平らな鏡(参照面)から反射させた、乱れのない綺麗な光(参照光)を用意します。
  4. この「物体光」と「参照光」という2つの光を、カメラの前で重ね合わせます。すると、両者の間で「干渉」が起こり、干渉縞と呼ばれる縞模様ができます。

もしウェハーの表面が完璧に平らなら、干渉縞は均一で綺麗な模様になります。しかし、もし表面にナノレベルの凹凸があれば、その部分だけ物体光の進む距離がごくわずかに変わり、波の位相がズレます。その結果、干渉縞に「乱れ」や「歪み」が生じるのです。この縞の乱れを解析することで、元の表面の凹凸、つまり3D形状を逆算することができます。

東芝は何を革新したのか?

この干渉を利用した測定法自体は以前からありましたが、数ナノメートルという微小な凹凸が引き起こす「位相のズレ」はあまりにも小さく、周囲のノイズに埋もれてしまって正確に捉えることが困難でした。

東芝の新技術が画期的なのは、この問題を解決した点にあります。記事によれば、彼らは参照光の「コヒーレンス(波のそろい具合)」を時間と空間の両面から高度に制御するという独自技術を開発しました。 これにより、計測の邪魔になるノイズ成分を極限まで抑制し、これまでノイズに隠れて見えなかった、極めて微小な位相のズレだけを、極めて高い感度で鮮明に浮かび上がらせることに成功したのです。

この「高感度化」と、一度の撮影で広範囲のデータを取得できる「ワンショット計測」を両立させたことこそ、この技術の最大の革新点です。


第3章:この技術がひらく、未来の製造業

この一つの技術革新が、製造業の未来に大きなインパクトを与えます。

「インライン全数検査」の実現へ

最大のインパクトは、生産ラインを止めずに、流れてくる製品のすべてを高速で検査できる「インライン全数検査」への道を開いたことです。 これまで不可能と思われていた、ナノレベルの精度での全数検査が現実のものとなるのです。

これによって、製造現場には以下のようなメリットがもたらされます。

  • 品質と信頼性の飛躍的向上:
    抜き取り検査では見逃される可能性のあった微小な欠陥を持つ製品が、市場に出回るリスクを劇的に低減できます。これにより、私たちが手にするスマートフォンや自動車に搭載される電子部品の信頼性が、さらに向上します。
  • 生産性の向上とコスト削減:
    万が一、製造工程で問題が発生し、欠陥品が作られ始めても、インライン検査によって即座にそれを検知できます。原因を早期に特定し、すぐさま製造プロセスにフィードバックできるため、不良品を作り続ける無駄がなくなり、歩留まり(良品率)が向上。結果として、製品のコスト競争力も高まります。
  • 新材料・新構造開発の加速:
    この技術は、完成品の検査だけでなく、新しい材料や半導体の開発プロセスにも貢献します。これまで見ることができなかった微細な表面状態の変化を可視化できるため、開発者はより多くの知見を得て、開発のスピードを加速させることができます。

まとめ:見えない世界を見る力が、未来を創る

今回ご紹介した東芝の新しい光学検査技術は、ナノスケールの「見えない傷」を「ワンショット」で3Dデータとして可視化する、まさに検査の世界における革命です。

  • その核心は、光の「干渉」という原理を利用し、独自の技術で光の波の性質(コヒーレンス)を巧みに制御することで、圧倒的な感度と速度を両立させた点にあります。
  • この技術は、半導体をはじめとするハイテク製品の製造において「インライン全数検査」を可能にし、品質と生産性を飛躍的に向上させます。
  • それは結果的に、私たちのデジタル社会を根底から支える、より信頼性の高い製品の安定供給へと繋がっていきます。

一見すると非常に専門的で、地味に見えるかもしれない「検査技術」。しかし、その進化こそが、華やかなテクノロジーの未来を支え、より安全で豊かな社会を築くための、最も重要で不可欠な一歩なのです。


参考記事

[1] https://news.google.com/rss/articles/CBMihwFBVV95cUxNRkNTUGU3S1VXMHE0RjZKOUdjbm5nNkRudjFBMmlkc2hEcXhsV0FaZ1RUNVIxN2J3amxkVHZxc0s2aVExTWl5aXA4Vm9jR3RTN1BZYWt5dV9YQ0R5d3hOVG9XaWxpMVBiZlhGOUlSVXBpZHVjUnpaVkFSOFE3NmNPTWxPLWdHazA?oc=5

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